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100年の歴史を持つ“茨城のゼネコン”。 社長は社員のために働く。

鈴縫工業株式会社
代表取締役社長 鈴木 達二

更新日:2024年2月28日

1974年生まれ。早稲田大学を卒業後、イギリスの大学院に留学してヒューマンリソースマネジメントを専攻。帰国後、茨城県に本社を置く食品スーパーの株式会社カスミに入社。情報システム部門で店舗システム開発に従事する。2003年に鈴縫工業株式会社に入社。総務、企画、営業、経理を経験し、つくば支店長、経理部長を歴任後、2017年に取締役。2019年に代表取締役社長に就任する。
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。

社員の働きやすい環境を創るのが、社長の役割。

鈴縫工業は大正7年(1918年)に創業し、現在まで地場密着の総合建設会社(ゼネコン)として100年を超える歩みを重ねてきました。

私はイギリスの大学院でヒューマンリソースマネジメント(人的資源管理)と労使関係を学んだ後、地元の食品スーパーに就職しました。そこでは情報システム部門に配属となり、新しい店舗管理システムの開発に携わりました。

国内外の様々なベンダーを利用していたこともあり、外国人エンジニアを含む多種多様なメンバーとともにプロジェクトを進める貴重な経験ができました。その経験が、経営者としての組織・しくみづくり、ICTの積極活用に直接的に活かされています。

2003年に父が社長を務める鈴縫工業に転職し、総務・企画部門、営業、経理と建設現場以外の部門を一通り経験しています。営業では顧客先回りも行ないました。顧客には官庁と民間があるのですが、それぞれで営業活動の仕方が異なります。

それぞれのアプローチ手法を自分自身で経験をしたからこそ、いま社員の皆が携わっている仕事一つひとつの難しさややりがいも分かるのだと思っています。

建設現場以外の様々な部署を経験した後、マネジメントバイアウト(MBO)で当社が非上場となった翌年の2019年、父の跡をついで社長に就任しました。100周年も迎え、新たな時代をスタートさせるのに良い節目だ、と先代が考えたのでしょう。

MBOに至ったのは、「地場密着のゼネコンにとって、上場企業であることにさほど大きな意義はない」と判断したからです。株式市場での資金調達の必要性があったわけでもなく、中小企業にとって上場を継続するハードルは年々高くなる一方でした。

MBOの手続きは私が主に担当したのですが、おそらく一生に一度のことであり、銀行と証券会社のなすがままに。今思えばもっとうまくできたであろうと思うところも多々あります。

社長になってつくづく感じるのが、「経営者というのは、社員の皆の活躍があって初めて成り立つ役割なのだな」ということです。社員の皆がやりがいを持って働ける仕組み、安心して長く働ける環境を作ること。これこそが、最も大事な経営者の役割だと認識しています。

創業100年は、地域に育ててもらったおかげ。

当社は建築分野においては大規模な公共施設やマンション新築から個人宅のリフォームまで、土木分野では道路の補修からダムやトンネル、港湾建設まで、幅広い建設工事に対応します。

また、その経験を活かした企画、設計、コンサルティングなどの建設関連ソリューションも提供。工事の売上構成は市場環境によって変化しますが、概ね建築が7割、土木が3割。地方にありながらも、様々な規模、種類の案件をこなせる高度な技術力をもったゼネコンとして、地域に貢献していきたいと考えています。

官庁工事と民間工事の双方にバランスよく対応していると、景気動向により一方が苦戦しても、もう一方で売上・利益を支えることができます。土木・建築のほか、不動産事業や太陽光発電事業も業績の重要な柱となっており、これらの組み合わせで安定的な収益の確保を目指しています。

当社が創業100周年を迎えられたのは、ひとえに地域に育ててもらい、地域から信頼をいただいてきた、その積み重ねです。今後も地域に感謝しながら、幅広いお客様のニーズに応えていきたいと考えています。

たとえ小額の仕事であっても、地元のお客様から望まれるのであれば、全力で取り組みます。共に茨城で事業活動を行うパートナーを軽んじるようなことは、当社にはできません。

ICT活用、働き方改革も推進する。

建設業というのは、比較的労働時間が長くなりがちな業種です。しかし、若年労働人口が減少する中、人材確保のためにもワーク・ライフバランスの確保や労働環境の改善に積極的に取り組んでいく必要があります。

時間外労働が増えるのは、「工期厳守」の商慣習によるところも大きいと考えています。公共工事においては、インフラ維持管理の担い手確保を目指す発注者による積極的な後押しにより、時間外労働の大幅な削減が実現しています。

しかし、民間工事ではお客様の事業計画に合わせるため、厳しい工期での施工を余儀なくされることも。それでも、できるだけプロジェクトの上流から関わらせていただき、計画段階からお客様と綿密に打ち合わせを行うことで適正な工期を確保することが肝要ではないかと思います。

併せて、建設工事に関わる業務の効率化や省力化も重要でしょう。そのためにICTの活用は避けて通れません。建設業界ではここ数年で建設現場におけるICTの活用が一気に進んでいます。当社もその例外ではありません。

建設現場におけるICT活用の本丸はBIM(ビルディングインフォメーションモデリング)/CIM(コンストラクションインフォメーションモデリング/マネジメント)、つまり3次元測量・設計データの活用です。土木分野においては3次元データを用いた建設機械による半自動施工がすでに広く実用化されています。

建築分野におけるBIMはまだこれからという段階ですが、当社では施工管理のみならず積算業務への活用を目指し、専門職員を育成するなど、積極的に取り組んでいます。

その他、バックオフィス業務を含め、業務効率化に繋がるシステムやアプリの導入にも積極的です。AIにも注目しています。現場での基本技術を学ぶのにAIを利用できるようになれば、技術伝承の問題も解決できるかもしれません。もちろん、実用化は少し先になると思いますが、他社に先駆けて取り組んでいきたいと考えています。

私は現場から要請があれば、できる限り応えていくつもりです。まずはやってみる。ダメだったらやめる。そのためには、社員一人ひとりの業務改善への意識を高めていくことも重要だと思っています。そしてそれが働き方改革の実現につながっていきます。

地域の守り手、地域づくりの担い手としての役割を今後も継続的に果たしていくためには、働き方改革を推進し、多様な人材が安心して長く働ける環境を作っていくことがなにより重要です。そういう意味で、ICT導入はコストではなく、投資と捉えています。

ブランディングにも注力。地域を元気に。

ブランディングの強化は当社の重要な経営方針の一つです。SNSの積極活用もその一環であり、外部に向けたブランディングの手段となっています。普段建設業に馴染みのない方々に当社や地域建設業のことを知ってもらい、応援団になっていただくことが狙いです。

その他、太陽光発電事業の収益の一部を青少年健全育成の取り組みに助成する「おひさまの恵みプロジェクト」の実施や、地元のプロサッカークラブであるJ2「水戸ホーリーホック」とのオフィシャルパートナー契約もまた、当社のブランディング戦略の一環です。

地域が元気でなければ、私たちの仕事も増えません。当社はこれからも地域社会の一員として、地域の盛り上がりに少しでも貢献していきたいと思っています。そうすることで、社員の皆が家族や知人から「いい会社だね」と言ってもらえる機会があるかもしれません。それはきっとなにより嬉しいことなのではないでしょうか。

地域のために力を発揮してほしい。

働きやすい環境を作るため、できることがまだまだたくさんあります。当社には社員表彰制度があるのですが、これは業務以外の地域貢献活動(地域ボランティアやPTAなど)も対象としています。会社としてだけでなく、社員の皆一人ひとりが地域に貢献する意識を持ってほしいとの思いから始めた制度です。

パソコンのスペックが低くて仕事の能率が上がらない、といったことは撲滅していきます。BIMのような3次元データの処理をはじめ、業務に必要とされるPCやタブレット端末の性能は日々向上しています。モニターも大きい方が仕事ははかどるでしょう。道具のせいで社員の仕事が制限されることのないように必要な投資をしていきます。

当社には茨城県内の建設会社としては唯一、単一の労働組合が存在します。組合とは随時協議・連携をしつつ、定期昇給やベアもできる限り実行しています。また、計画を上回る利益を上げた場合、その一部を期末手当として還元することを明言しています。

定年も65歳に引き上げました。これまでは60歳定年後に再雇用で、その後は給与額がダウンするしくみでしたが、新たな定年制度では基本給はほぼ据え置きとなり、65歳まで安心して存分に働けます。現場では、親子以上に離れた年齢差の技術者が、力を合わせて仕事に取り組んでおり、世代の違う仲間と働くことで触発されるケースもあるでしょう。

当社には施工管理や営業、事務など様々な仕事がありますから、経験や意欲が活かせるフィールドも見つけやすいでしょう。元上場企業として、企業のガバナンスや社内制度、組織づくりには万全を期しています。公平公正な環境の中で、地域のために力を発揮したいと考える方は、価値を見出だせるでしょう。

アンテナを高くして、新しいことにもどんどんチャレンジする。そういう方に来ていただけたら、心強いですね。

編集後記

コンサルタント
佐藤 照昭

鈴木社長は経営者となる前に、総務・企画・営業・経理・情報システムの実務経験を持ち、また大学院時代にはヒューマンリソースマネジメントを専攻されていました。その知識と経験をもとに鈴縫工業社を堅実に経営されている印象を持っています。今回のインタビューにおいても、とてもフランクに、そして誠実にご対応いただきました。

いま建設業界は「2024年問題」に頭を悩ませていますが、鈴縫工業社はICTを活用した働き方改革にいち早く着手し成果をあげています。これからも茨城県の建設業界をリードする存在であり続けてほしいと思っています。

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